物理療法の種類・環境的な要素も大切な温泉療法について

物理療法は、物理的なエネルギーを利用して行われる医療行為で、理学療法と呼ばれることもあります、中でも人間は、古くから太陽光や温泉などの自然エネルギーを使用した物理療法を行ってきました。日本にも「湯治(とうじ)」という言葉があるとおり、現在も温泉宿に宿泊しながら、体やメンタルの痛みを癒やす人たちがいます。この記事では、物理療法の一つ・温泉療法について詳しくご紹介します。

物理療法の一つ・温泉療法

物理療法の一つである温泉療法は、人間が古くから行ってきた、自然エネルギーを利用する医療行為です。医学がまだそれほど発達していなかった古代から、公衆の医療施設として利用されてきた温泉。日本でも真偽のほどはどうあれ、神話の中にも温泉は登場しています。武士が世を治める時代になると、負傷した兵士たちの傷を癒やす場所として「隠し湯」が利用されました。武田信玄のように、戦国武将自らが病気の治療目的で温泉に通っていたという例もあります。

物理療法の一つ・温泉療法の目的

このように古くから行われている物理療法の一つである温泉療法は、入浴だけではなく、温泉を飲んだり、湯気を吸い込んだりすることで体の調子を整え、傷や病気を治療することを目的としています。温泉療法は、現在では「医学」として、医学的な見解に基づき行われる医療です。大きなくくりでは「水治療法」にも含まれますが、温泉療法の場合、泉質という要素が加わります。温泉療法の目的でもある「治療」についてもう少し細かく分類すると、

・湯治

温泉に一定期間滞在することで病気や傷を治す

・療養

医学的に病気や傷を治す

・保養

心と体のリラックス

の3種類に分類されます。

温泉療法の作用

「湯治」「療養」「保養」を目的とする温泉療法ですが、ここからはその作用についてご説明します。

物理的作用

温泉療法の物理的作用は、人が温泉に入浴することで作用する水圧や浮力などの要素のことを指します。人は温泉に入ることで水圧を受けますが、これは日常生活で感じている気圧からの解放であり、ある意味、マッサージのような効果を入浴する者に与えます。また、水圧を受けた状態で呼吸することにより、肺を鍛えることが可能です。温泉入浴中は、浮力により体が軽く感じます。関節を動かす場合も負担が軽減されるため、リハビリなどに向いています。さらに湯温の高低により、血行促進や癒やし効果などにつながります。

自律神経に対する作用

温泉療法は、自律神経、特に人を落ち着かせる副交感神経に作用します。温泉に浸かることでリラックスできるのはそのためです。ストレスあふれる都会の生活から、温泉地などに行くだけでもリラックスにつながりますが、実はお風呂に浸かるだけでもリラックスできるという人は数多くいます。しかし、温泉の成分には化学的作用があり、普通のお風呂との「違い」を作り出しています。

温泉の化学的な作用

温泉に含まれている成分、温泉の泉質が、さまざまな医学的作用をもたらす要素です。硫黄や食塩、二酸化炭素など、温泉の成分は11種類に分けられており、これらが医学的作用として効果をもたらします。ただ、すべての成分がプラスに働くわけではないことは理解しておく必要があります。温泉の効能としてよく挙げられるのは、アトピーやリウマチ、腰痛、神経痛、外傷などですが、これらのほかに肌への好影響を謳う温泉もあります。

幅広く活用される物理療法・温泉療法

温泉療法は、入浴するだけではなく、他の療法と組み合わせることで相乗効果が期待できる場合もあります。運動療法との組み合わせ、また、温泉療法には、すでに気候療法の要素がありますので、その温泉地の環境からの刺激も影響します。温泉療法は、自然のエネルギーを使った体にやさしい療法です。薬を使用することなく体の調子を取り戻し、ストレスから解放してくれます。温泉療法は、リハビリや予防医学など、時代の先端を行く医学との相性も抜群なのです。

世界の温泉療法

古くから行われている物理療法であり、自然のエネルギーを使用する温泉療法は、日本だけではなく世界中で行われています…というよりは、海外のほうが、温泉療法に関しては、日本よりも進んでいると言えます。特にドイツやフランスなど、ヨーロッパの温泉地では古代から医療として温泉が利用されていて「バルネオセラピー(Balneotherapy・温泉療法)」として親しまれてきました。ここからは、そのバルネオセラピーの一部をご紹介しましょう。

吸入療法

ヨーロッパにおいて、もっとも重要とされる温泉療法が、この吸入療法です。吸入療法では、粒子状にした温泉水を、呼吸しながら吸い込みます。ドイツには吸入療法専門の施設があり、施設内外に霧状となった温泉水を噴霧、個人、団体の療養者がここを訪れ、施設を散策したり、休息を取ったりしながら、これを吸引しています。

水中運動療法

温泉療法と、リハビリや生活習慣病対策によく用いられる物理療法「運動療法」を組み合わせた療法が水中運動療法です。温泉水には温熱、浮力、圧力、粘性抵抗という特性があり、これらを駆使して体に刺激を与えることで、疾病からの回復を狙います。ヨーロッパでは、主にリウマチを原因とする股関節などの障害の改善を目的としたリハビリがよく行われています。

物理療法「温泉療法」日本における歴史と現状

自然のエネルギーを利用する物理療法の一種「温泉療法」は、冒頭で触れたとおり、日本でも長い歴史があります。戦国武将たちが、兵士の傷を癒やす場所として温泉を利用していたことはよく知られていますが、その後、江戸時代になると参勤交代により主要街道の整備が進み、それまでは地元の人のみが利用していた温泉が、温泉宿として発展していくことになります。この時代には温泉の研究家も現れ、医療として温泉を研究する者もいました。

文明開化の頃、日本には沢山の西洋文化が入ってきましたが、その中でもやはり西洋医学は日本にとって大きなインパクトのあるものでした。それまで温泉療法は、漠然と「効果がある」と考えられてきましたが、西洋医学により、その効能が疑われるようになってしまったのです。しかし、温泉成分の解析が進んだことや、海外の専門家による研究の結果、日本における医療目的での温泉利用の可能性が裏付けられました。

しかし、日本の多くの温泉地は、行楽地として発展していくことになります。湯治という日本の習慣は、この波にのまれていきます。

ただ、研究者レベルでは、医療としての温泉利用の考えが廃れることはありませんでした。戦前の1935年には、日本温泉気候学会が誕生。物理療法「温泉療法」の研究が始まりました。戦後、地質学など、温泉と関連の深い学問が発展することにより、温泉成分の可能性に光が当たるようになりました。文明開化の頃に一時忘れられかけた温泉療法に、再び注目が集まるようになります。研究が進むにつれ、「名湯」と言われた温泉地では、その成分の効能が科学的、そして医学的に認められることで、湯治利用の温泉が再び盛り上がりを見せています。ただ、現在も「医療」としての温泉療法にははっきりとした定義が存在しているわけではなく、課題があることも事実です。

歴史ある物理療法・温泉療法

物理療法の中でも、自然のエネルギーを使って行う温泉療法は、世界に文明が生まれた頃から行われている療法です。運動療法など、ほかの物理療法とセットで行うことで、相乗効果も期待できる温泉療法。日本における、医療としての温泉は、世界に少し後れを取っていることは否めませんが、効能に優れる湯治向きの温泉に関しては、国も差別化を図るなどの対応を取っており、今後の動きが注目されます。